【後編】グローバル化の時代の、経営戦略に大切なこと(カルロス・ゴーン氏の日経連載「私の履歴書」より)
カルロス・ゴーンさんが日経新聞の連載で書かれている「私の履歴書」。
前回は「グローバル化の時代に大切なこと」という観点からブログを書きました。
今回もゴーンさんの寄稿を元に、「グローバル化の時代の、経営戦略に大切なこと」について書いてみたいと思います。
まずはゴーンさんがブラジル・ミシュランで成功を収めた後、米ミシュランに赴任し、1990年にユニロイヤルを買収したときのことを振り返っている、以下の引用から。
統合すべき事業を一緒にし、相乗効果を生む組織づくりを心がけた。私はミシュラン、ユニロイヤル双方から最良の人材を集めて経営執行委員会をつくった。やがて日産自動車に誕生する「クロスファンクショナルチーム」の原型である。
外国企業との文化の融合はフランスの地方企業だったミシュランにとって初めての大仕事だった。短期的な利益を重視する米国流の経営と相州の同族企業的な長期経営はどこかで折り合う必要があった。米国は新しい時代を模索する場の最前線だった。
文化の融合とはつまり、互いを尊重し合うことである。ユニロイヤルは内部に優秀な人を多く抱えており、それを最大限活用した。販売面ではマルチブランド戦略を採った。ユニロイヤルの製品は車の購入後に買われる「アフター市場」に強く、そこに軸足を置くことでミシュランとの共存を図った。
―日経新聞:2017年1月8日「私の履歴書」カルロス・ゴーン(7)
ここで重要なキーワードは「クロスファンクショナルチーム」と「文化の融合」です。
「クロスファンクショナルチーム」の本質は、持っている資産を最大限に活用し、効率的に利益をあげる"仕組み"を作ることだと思います。ゴーンさんはブラジル・ミシュラン時代に「クロス・マニュファクチャリング(別々のブランドを同じ製造ラインで効率的に生産する手法)」を見出し、それによりブラジル・ミシュラン社を当時のミシュラングループの中で最も利益をあげるにまで成長させた成功体験を持っていて、それが後の「日産リバイバルプラン」で登場する「クロスファンクショナルチーム」の考え方に活きる。
「文化の融合」については、ルノーと日産が提携し、来日後の株主総会での最初の挨拶をしたときのことを振り返った寄稿に詳しく書かれています。
「皆様、はじめまして。カルロス・ゴーンです。私はルノーのためではなく、日産のために日本に来ました。」
温かい拍手を今でも覚えている。その頃にはルノーから幹部や管理職クラスが日本に到着しつつ合った。人選で重視したのは熱意と、開かれた精神の持ち主かどうかだった。日本に着いたら植民地を支配するように振る舞うそうな人はふさわしくなかった。必要としたのは、日産の人々と一緒になって問題解決に当たれる人材だった。
色々な国で会社のリーダーとして働いてきた経験から本当に会社を変えられるのは、中にいる人々だとわかっていた。変えるのはあくまでも日産の人々だった。だから、最新の注意も払った。ルノーの人間にはフランス人だけで固まって行動しないようにと支持を与えたこともある。非常に難しい仕事だっただろう。だが、開かれた精神の持ち主だけを選んだおかげで、フランス人らはすぐに日産になじみ、歓迎された。
日産側の人々も戸惑いはあったはずだ。2000年ごろ、テレビでこんなCMが流行っていた。「新しい上司はフランス人、ボディーランゲージも通用しない・・・」。握手をするフランス人とお辞儀をする日本人は文化が大きく異る。それでも、自動車業界で唯一成功した提携の事例となりえたのは、異質な人間同士が同じ目標に向かって心を一つにして働いたからだ。
―日経新聞:2017年1月12日「私の履歴書」カルロス・ゴーン(11)
先日書いた前編でも書きましたが、それぞれの多様性(異文化)を尊重する大前提のもと、それぞれの多様性(異文化)の良い部分を積極的に活かしていくという"攻め"のスタンスが、ゴーンさんの言う「文化の融合」の本質だと思います。
そしてルノー・日産のアライアンスが成功した一つの要因として、「異質な人間同士が同じ目標に向かって心を一つにして働いたからだ」とゴーンさんは書かれていますが、その秘訣が以下の寄稿に書かれています。
日産に来て私が手掛けた中期計画に共通するもの、それは数字と言えるだろう。日産リバイバルプラン(NRP)では「購買コスト20%削減」「負債半減」といった数字を使った。直近の計画は名前が「パワー88」と言う。
ビジョンを社員に浸透させるのに重要なのは共通の言語だ。私はそれが数字だと思っている。日本人とフランス人には大きな文化の違いがある。フランス人は物事を決めるのが早いが、決定事項の理解は個人に任されているので行動する時にばらばらになることが多い。一方、日本人はなかなか決められないが、いざ決まれば目標に向かって一つにまとまる力がある。
両者の違いを埋め、力を最大限引き出すには、双方で共有できる分かりやすい目標が必要だ。それが数字である。数字は多用な言語、文化の中で育った私が考え抜いた共通の言語なのだ。
―日経新聞:2017年1月15日「私の履歴書」カルロス・ゴーン(14)
異質な人間同士に、同じ目標を認識させるために最も有効なのは「数字」だということです。アメリカの企業は数字至上主義だという話をよく聞きますが、様々な人種・文化・考え方の人々が集まる「人種のるつぼ」である国での経営において、数字での管理がもっとも合理的であることは容易に想像ができ、そういった観点からもこれは納得がいきます。
前回のブログでも言及しましたが、多様性(異文化)は諸外国・外国人との関係におけるものだけではありません。国内においても、地方ごとの文化や企業ごとの文化、世帯ごとの文化、人それぞれの価値観や考え方など、様々な"多様性(異文化)"が身近にあります。
近年では大手企業が際立つテクノロジーやサービスを持っている中小企業やベンチャー企業と提携して事業を行っていくことは珍しくなくなりました。今後も企業規模の大小にかかわらず、企業間でのアライアンスはどんどん増えていくでしょう。そういった時代の流れの中で、このゴーンさんの考え方は非常に示唆に富んでいるのではないかと思います。
バーで出くわしたヒステリックな彼女
仕事始めの最初の週末。ふと思い立って昔通っていた自宅近くのバーに立ち寄った。
久々のバーの雰囲気に若干緊張しながらも、「ああ、昔よく来てたなあ」と静かにグラスを傾ける。店内にはヨーロッパ調のバーカウンター・テーブル・チェアそしてビアサーバーが並び、薄暗がりの、ブリティッシュパブ独特の雰囲気だ。かといってオーセンティックなバーではないので、肩肘張らずにリラックスして飲むことができる。僕はこういった雰囲気のバーが大好きだ。
そこに流れる80年代の洋楽ポップス。そうだった、ここは日によって流れるBGMが変わるのだ。80年代の洋楽ポップスは海外生活をしていた際によくラジオで聞いていたので非常に耳触りが良かった。貸し切りパーティが終わった後だったためか店内も落ち着いていて、今日はゆっくりとグラスを傾けることができた。
しばらくすると1組の男女ペアが入店してきた。見たところ20代後半から30歳前半の男女。女性の方は満面の笑みで楽しげな様子。きっと他所で飲んできて飲み足りないから、もう少し飲みに来たのだろう。そう思ってまたグラスを傾ける...
すると突然店の奥から「バン!」とテーブルを叩く音が聞こえる。
振り向くと先ほど入店してきた男女のペアだ。女性の顔を見ると先ほどの満面の笑みはどこへ消えたのか、鬼の形相に豹変している。どうやらテーブルを叩いたのは彼女の方らしい。
自分は酔っ払っているのか?いや、しかしまだ1杯目も飲み干していない。確かに仕事始めでバタバタしているので睡眠不足ではあるが、さすがに1杯目も飲み干さないうちに意識がもうろうとするほどお酒に弱くはない。
そう思っていると再びテーブルを「バンッ!」と叩く音が聞こえる。それに加えて、相方を大声で罵る声も聞こえてきた。そうだ、間違いない。先ほどのテーブルを叩く音も罵詈雑言も、彼女によるもので間違いない。
しかし、ちょっとした言い争いだろう。金曜日の深夜、お酒の入った男女の間ではそう珍しい風景でもなかろう。その場に居合わせた誰もがそう思い、余り気には留めなかった。
しかし、その彼女の罵詈雑言はおさまるどころかエスカレートする一方だ。さすがに店内に居る客はもちろん、パブのマスターや店員さんも苦笑するしかなかった。あの連れの男は一体何をしでかしたのだろう。浮気でもしてバレたのか?彼女の方も年始だし、色々とバタバタしていて精神的なゆとりも無かったのかもしれない。そうだよな、誰だって多少ヒステリックになることもあるよな。
そう思い、隣で起こっている現象を正当化し理解しようとしていたのかもしれない。
そして事件は起こった。
「バシャッ!」
「うわ!冷たっ!!」
何事だ、と思って振り向くと隣で飲んでいた常連客が「ええ!?」と驚き自分の背中や足元を確認している。
ビールをかけられたのだ。
ヒステリックな彼女に。
もちろん、そのヒステリックな彼女は常連客にビールをかけようとしてかけたのではない(と思われる)。感情が高ぶって相方にビールをかけようとしたのだろう。そしてそれが見事に(?)隣りにいた常連客にかかってしまったのだ。
もうこうなるとバーのマスターも動き出す。もう彼らは今日ここでこれ以上飲む権利はない。 "You'd better not be here" だ。相方の男性もパブの店員に誘導されるまま会計を済ませ、不運にもビールをかけられてしまった常連客にクリーニング代を渡す。しかしこの常連客がまた男前で「クリーニン代はいいよ。俺は大丈夫だからそれよりも彼女を見てこいよ」と先に店外に出ていったヒステリックな彼女を見てくるように言う。
人は想定外の状況に陥った際の対応でその人が分かると言うが、この常連客はまさにジェントルマンだった。普段はフレンドリーで話しかけやすく、こういう状況でスマートな振る舞いができる、そんな大人の男になりたいと思う。
良い意味で、普段あまり考えないことを考えさせられた。そう思いながら、事態も収まりグラスも乾いたところで店を後にした。
それにしてもあのヒステリックな彼女、不細工だったなあ。
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現実は小説よりも奇なり。嘘のような実話の、拙いエッセイでした。
【前編】グローバル化の時代の、経営戦略に大切なこと(カルロス・ゴーン氏の日経連載「私の履歴書」より)
こんにちは。2017年最初の「私の履歴書」(日経新聞)でカルロス・ゴーンさんが「グローバル化の時代に大切なこと」について書かれていたので、今日はそれについて考えたいと思います。
ゴーンさんといえば、2016年に三菱自動車が起こした不祥事の後、華麗な買収劇を見せたことでも話題になりましたが、言わずと知れた敏腕CEOです。そんなゴーンさんが日経の「私の履歴書」に書かれた内容を一部引用します。
私は日本を代表する自動車メーカーで社長を務め、仏ルノーの会長でもある。1人の人間が文化の異なる2つの国の大企業でトップを務めるのは奇跡だ。だが、現実でもある。
私には子供が4人いて1人はブラジル、3人は米国生まれだ。フランスと日本と米国で教育を受け、今は仕事で世界中を飛び回っている。
彼らはブラジル人であり、米国人であり、日本人の礼儀正しさや几帳面さを尊敬する人間だ。フランス流の思考もできる。そうした「アイデンティティーを失わず、多様性を持った人間」がこれからは間違いなく増える。
―日経新聞:2017年1月1日「私の履歴書」カルロス・ゴーン(1)
実はこれを読む前に、ゴーンさんの書かれた"履歴書"だからきっと華々しいストーリーのオンパレードで、ゴリゴリの成功哲学が書かれているんだろうなと思ったのですが、予想を反して(?)そういう内容のものではありませんでした。
私は小さい頃、海外に10年近く住んでいた経験もあり、グローバルで活躍する人材になるためには「異文化コミュニケーション」が大事で、そのためには「多様性(異文化)を受け入れることが重要」だと習いました。
もちろんそれも重要では有るのですが、どちらかというとゴーンさんの文章には「多様性(異文化)の伝道者たれ」と解釈することができて、確かにそれもそうだなという気付きが得られました。すなわち、「多様性(異文化)を受けいれますよ」という"待ち"のスタンスではなく、積極的に「多様性(異文化)の良い部分を活かしていきますよ」という"攻め"のスタンスですね。
多様性(異文化)は別に海外に出なくても国内にもたくさんあります。それは地方ごとの文化だったり、企業ごとの文化、世帯ごとの文化など、様々な"多様性(異文化)"が身近にあります。これらもすべて同じ文脈で、同義に考えることができます。
そう考えると「何だ、当たり前のことじゃないか」とも思うのですが、1つ1つの多様性(異文化)に気付き、受け入れるだけでなく活かしていくことがグローバル規模にできる人材になっていきたいなと、新年早々思った次第です。